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最高裁判所第一小法廷 昭和55年(あ)329号 判決 1980年10月23日

本店所在地

岡山市表町二丁目一番四一号

株式会社 光商店

右代表者代表取締役

佐藤豊

本籍

岡山市撫川四二三番地

住居

同 表町一丁目一〇番二〇号

会社役員

佐藤豊

大正一五年二月一九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五五年一月二五日広島高等裁判所岡山支部が言い渡した判決に対し、被告人らから上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人田野寿の上告趣意のうち、重加算税のほかに刑罰を科することが憲法三九条に違反するという点は、当裁判所大法廷判決(昭和二九年(オ)第二三六号同三三年四月三〇日大法廷判決・民集一二巻六号九三八頁、なお、同四三年(あ)第七一二号同四五年九月一一日第二小法廷判決・刑集二四巻一〇号一三三三頁参照。)の趣旨に照らし、その理由のないことが明らかであり、その余の点は、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よって、同法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口正孝 裁判官 団藤重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山亨 裁判官 中村治朗)

○昭和五五年(あ)第三二九号

被告人 株式会社光商店

同 佐藤豊

弁護人田野寿の上告趣意(昭和五五年四月九日提出)

第一 原判決には憲法第三九条の違反がある。

即ち、被告人株式会社光商店は、既に重加算税一六、二〇五、一〇〇円を納付している。重加算税は実質的には罰金である。重加算税の納付をさせたうえ、更に刑事裁判で罰金刑を課すことは実質的に二重処罰にあたり、憲法違反と考える。

第二 原判決には重大な事実の誤認があり、これは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

即ち、原判決認定の各期の逋脱金額は多すぎ、昭和五二年一二月二三日付、木下信二作成の簿外の定期預金に関する調査事項報告書記載の預金は、被告人佐藤豊個人の資産であり、被告人会社のそれではない。その預金の法定果実 利息は被告人会社の所得とならないから、同額を逋脱額から控除すべきである。

又、被告人佐藤が、被告人会社の所得を右報告書記載の如く、仮名預金にした場合、被告人佐藤としては、それを自分個人の資産とするつもりであり、法的には被告人会社の資産ではなくなっているはずである。仮りに被告人佐藤の右行為が刑事罰上、横領又は背任になるとしてもその理に変わりはないはずである。

第三 原判決の刑の量定は甚しく重く不当で破棄しなければ著しく正義に反する。

一、被告人は重加算税を含め、滞納していた諸税総額一〇八、一三一、八一〇円を全額完納している。一時的に国等の租税債権を侵害していたものの、現在では既にその状態は無くなっている。国、地方公共団体の損害は全く零になっている。

二、右納税により、被告人の不当利得は無くなったのみか、利得以上の出損をし、逆に損害を被っている。

三、被告人会社は、実質は個人企業を法人組職にしただけである。経費を差引き、残余は社長個人のものという考えがどうしてもでてくる。給料として残すのも、売上除外をして残すのも同じと単純に思いがちである。このことは、事件当時被告人佐藤豊の給与が、会社の利益に比較すると低すぎることから裏付けられる。もし適正な税務上のアドバイスがあったなら、被告人佐藤豊の社長給与を十分にとり、会社の利益を少くすれば、本件の脱税額までは至らなかったはずである。税法の無知識が招いた単純・素朴な事件である。

四、再犯のおそれは全く無く、改俊の情顕者である。即ち、従来の経理方法を一新し、コンピューターを取り入れた税理事務所に経理全部を委託している。従来の様な売上除外による脱税を行なう余地は全くない。

又、被告人佐藤も、その妻も、被告人会社の事業規模=利益額にふさわしい額の給与をとることにより、個人資産を増やしていく方法、即ち、税法で認められた経理方法を活用しているので、最早、脱税をやる必要もない。

更に被告人は、脱税は必らず発覚し、発覚すればそれまでの隠匿資産を一挙にはき出し、けっして長期的視野に立てば得にならないことが十分わかった。そして現実的には、納税額に不当な不均衡があることは否定できないが、自分としては、税法に触れることは以後絶対しないと反省している。

以上

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